SSH初年度が終了した時点で、2年次の研究計画として以下のような内容を設定した。
2年次の最大の課題は、④の学習プログラム(ワークショップ)の開催であり、そのためには②必要な機材の確保と①適切な教材の開発が完了しなければならない。さらに大学や関連企業との連携を図り、ワークショップの運営形態を確立しなければならない。このような手順を経てサイエンス・コミュニケーション能力獲得の第1段階に到達することができれば、学習者にテクノロジーを認識させテクノロジーを体験させることができ、学習者に変容をもたらすことができるはずである。技術・情報科ならびに芸術科は、ワークショップを開催する上で経験や人的資源に富んだ環境を備えているとは言い難いが、上記の仮説をもとに研究実践・検証に取り組むことにした。
3DプロッタRolandDG社製MODELA MDX-15は、XYプロッタの制御コマンドが拡張されたRML-1コマンドが送り込まれることで動作する。RML-1の仕様は一般的に公開されていないが、本研究の趣旨を説明したところRolandDG社より同機のSDK(開発環境)の提供を受けることができた。必要な仕様は、mode1およびmode2の基本書式、ワーク座標系の基準値を設定する@コマンド、XY原点復帰とモータ停止用のHコマンド、直線切削用のIコマンド、直線移動用のRコマンド、ツールのアップダウン用のPU/PDコマンドなどである。
3DプロッタとPCはRS232Cケーブルを介して接続される。ワークショップ開催時の可搬性を考慮してノート型PCを採用したところ、PC本体にRS232Cポートが装備されていないことが判明した。このため図1のようなUSBとRS232Cを変換接続するケーブルを用意した。
3DプロッタMDX-15の接続に使用されるRS232Cケーブルは、一般市販品とはピン配置が大きく異なっている。そこでピン配置を変換するブレッドボードを製作し(図2)、ケーブルの延長も兼ねることにした。
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| 図1 | 図2 |
3DプロッタとPCが接続できた後、PCからターミナルソフトあるいは後述するPIC開発環境に付属するSerial Communicatorを使用してRML-1コマンドを送り込み、実際に3Dプロッタが動作することや各コマンドのパラメータの影響を確認した。
1ボードマイクロコンピュータPICDEV-250BにはRS232Cポートが装備されているが、コネクタがメス形のため特殊コネクタ(図3)を用いてジェンダ変換を行い、RS232Cケーブルを用いて3Dプロッタと接続した。PICからRML-1コマンドを出力する簡単なプログラムを実行させたところ、3Dプロッタは全く動作しなかった。オシロスコープを用いてRS232CポートのTX端子とRX端子の信号を観察した結果、PICのRS232Cポートは周辺機器として設計されていることが判明した。このため、PIC基板の配線パターンを図4のように改造し、TX端子とRX端子が逆に接続されるようにした。
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| 図3 | 図4 |
主にテクノロジーの認識を意図的に促すには、1ボードコンピュータを用いた3Dプロッタ制御のようなプリミティブな形態が適当であると考えている。すなわち1ボードコンピュータの制御によって切削(製作)可能な教材を用意する必要があり、以下のようなロストワックスの平板を加工する例を考案した。
ロストワックスはRoland DG社よりモデリングワックスの商品名で販売されているもので(図5)、予め75mm×85mm×17mmに切り分けておいた(図6)。
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| 図5 | 図6 |
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このロストワックス平板の表面に、縦方向、横方向いずれも10mmの分解能で簡単な図柄を描かせることにした。3Dプロッタのミルを、切削しながら2次元方向に移動させることと、切削の前後に上下させるだけでよいので、制御が簡単になり図柄も作成しやすく、その結果テクノロジーの認識を促しやすいと考えたからである。
図柄を用意させ、同時に3Dプロッタの動作を予見させるために、図7のようなワークシートを作成し使用させた。
1ボードマイクロコンピュータから3Dプロッタを制御するために、簡単な入力インタフェースを備えたユーザプログラムを作成した。開発環境にはPICDEV-250Bに付属してきたPic Basic Pro Compilerを用いた。ユーザプログラムは、制御コマンド入力機能、デバッグ機能、制御コマンド実行機能から構成し、ボード上に備わっているタクトスイッチの一部を利用して各機能を利用できるようにした(図8)。以下に開発したプログラムの一部を示す。

図9はタクトスイッチから制御コマンドを入力・確認しているところである。
制御コマンドの意味とタクトスイッチの位置関係を理解させるために、図10のマニュアルを 作成した。また用意した図柄から制御コマンドを割り出すために、図11のようなワークシートを作成し使用させることにした。
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| 図8 | 図9 |
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テクノロジーの体験段階では、PC上で動作するアプリケーションとして、3DCAD・CAMソフトウェアを活用し、製品の設計から製作まで一連の作業がPC上で完結する教材を考案した。3DCADソフトウェアに使用したMcNeel社Rhinoceros(図12)は、PC上で精密なモデリングとレンダリングを行うことができ、設計された製品のデータはCAD標準のDXF形式ファイルに出力することが可能である。一方、製品データに従って3Dプロッタを制御し材料を切削するために、MODELA MDX-15に付属するRolandDG社製のVirtual Modela、およびMODELA Player(図13)を使用した。前者はPC上で切削工程のシミュレーションを行うソフトウェアである。
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| 図12 | 図13 |
ここで、Rhinocerosから出力したDXF形式のデータファイルを、Virtual Modela、およびMODELA Playerに読み込ませようとするとエラーが発生した。試行錯誤の結果、別のCADデータ形式であるSTL形式あるいは3ds形式が利用できることが判明し、以後データの変換形式を変更することにした。
MODELA MDX-15は3軸の3Dプロッタに過ぎないため、3DCADソフトウェアで自在に描いた製品を全て加工できるわけではない。特に垂直方向には、上方から下方にかけてミルが材料内部に進行することができず、製品の形状は大幅に限定される。また、複雑な形状や大きな製品では切削時間が極端に長くなり、限られた時間内に学習を終えることができなくなる。学習者の理解や技能の限度を超えてしまう可能性もある。
このような制約を解消し、かつCAD・CAMのテクノロジーを体験することができる教材として、図14のようなケミカルウッドによるピルケース加工を考案した。
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| 図14 | 図15 |
本体は蓋と底に分かれており、境界部分は凹凸の嵌め合い構造にした(図15)。精密な加工により蓋と底が正確に嵌め合わされ、手作業ではなし得ない高度なテクノロジーの世界を体験することができる。また、CADソフトウェア上で平面形状を変更することで、図16のように様々なピルケースを製作することができ、実際にタブレットなどを入れることができて実用的である。
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なお、教材を考案する途中で、WEB上にSTL形式や3dm形式のCADデータが多数存在することに気づいた(図17)。一部は自由に使用することができるため、学習者に素材として提示することも考えたい。
年度前半の準備を経て、夏期休業中の7月29日(火)と30日(水)の2日間にワークショップを開催した。両日の時程は図18の通りである。
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1日目の講義「CAD・CAMの世界」は、筑波大学農林工学系講師の長谷川英夫先生にお願いした。長谷川先生は同大学農林工学系教授の佐竹隆顕先生に紹介をいただいた制御工学の専門家である。2日目の講義「Roland MDXについて」は、Roland DG社の砥山博行氏が引き受けて下さった。砥山氏および同社の加茂氏は、本校が3Dプロッターを導入した時点から接触があり、教育利用に関する様々な技術的助言をいただいた。また両日とも、東京都文京区立第三中学校の松本誠之氏、ローランドDG社の加茂氏、本校技芸科非常勤講師(技術科)で東京学芸大学教育学部大学院生の永澤悟氏に補助スタッフとして当日の実習のサポートをお願いした。
初年度の試行でもあり、最初から多人数でのワークショップ開催は困難であるから、定員を12名とした。募集要項を作成し高校生全員に配布した。また、募集要項に合わせて図19の掲示用ポスターを作成した。申込者数は13名であったが全員参加させることにした。
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ワークショップの最初に、CAD・CAMの世界への興味・関心を高めるためにWEB上にある動画をいくつか紹介した。いずれも迫力のある機械加工の現場を写しており、学習者はグループごとのPCからさらに興味のある動画を観ていた。
次にワークショップ参加の動機などを明らかにするため、簡単な事前アンケートを実施した。質問項目は以下の通りである。
この中で①に対して以下のような回答があった。
③に対して、「ある程度知識や理解がある」と回答したのが4名、「名前や意味を聞いたことがある」5名、「ほとんど知識や理解がない」2名、「全く知識や理解がない」1名であった。④に対しては、12名全員が「ある程度興味・関心がある」と回答した。
続いて筑波大学の長谷川先生に「CAD・CAMの世界」のタイトルで講義をいただいた。図20は講義に用いられたプレゼンテーションスライドの一部である。また図21は、ロストワックスの平板加工で、ワークシートを使って図柄を作成 し制御コマンドのリストを書き込んでいるところ、図22は3Dプロッタで図柄通りに切削が終了したところである。
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| 図21 | 図22 |
1日目の終了時に以下のような事後アンケートを実施し、テクノロジーに対する認識・体験の変容を探ることにした。
①については、9名が「よく理解できた」、④では2名が「興味・関心が大きく高まった」、8名が「興味・関心が多少高まった」と回答した。
2日目の最初は、Roland DG社の砥山博行氏に3DプロッタMODELA MDX-15の機能や性能について解説していただいた。1日 目の平板加工が順調に進んだのに対し、CAD・CAMソフトウェアによるピルケース加工(図23、24)は思わぬトラブルに見舞われた。先述したUSB-RS232C変換ケーブルに付属してきたドライバに不具合があり、3Dプロッタが誤動作する事態が発生した。まれに最後まで切削できる場合もあったが、約半分のグループが切削を完了できなかった。後日最新のドライバに更新したところ、この問題は解決した。
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| 図23 | 図24 |
2日目の最後にも事後アンケートを実施した。
①については「よく理解できた」6名、「ある程度理解できた」4名で、全体的にプロダクトデザインに関する理解が進んだようである。②も「よく理解できた」7名、「ある程度理解できた」4名で、切削加工に必要な準備がほぼ理解されたといえる。ドライバの問題で切削が完了できなかったため③への回答は思わしくなく、「どちらとも言えない」が6名で大半を占めた。ワークショップを通して最も注目すべき④への回答は、「興味・関心が大きく高まった」が5名、「興味・関心が多少高まった」が6名で、好結果を得ることができたといえよう。⑤の記述について以下に示す。
夏期ワークショップ開催中の様子、ワークショップの成果等は、WEBページ「SSH技術・情報科プログラム」を作成して内外に公表した。http://komabano.xrea.jp/ssh/modules/menu/main.php?page_id=1&op=change_page
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いくつかの写真には動画がリンクされており、画面をクリックすることでビデオ映像が再生される。特に3Dプロッターの動作が克明に記録されており、動作音も再生されるため同様の機材を使用する場合に、学習環境を想定する上で有効であると考えられる。
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図26は、切削が終わった部品を切り離し、ピルケースの上下を合体させようとしているところである。学習環境の整備が不十分であったため、参加者にCAD・CAMの世界を存分に味わってもらうことはできなかった。しかし、2回の事後アンケートの結果は、本プログラムがテクノロジーの認識と体験に有効であることを示している。最初のワークショップ開催から得たノウハウを活用し、次年度もプログラムを継続していきたい。