Ⅰ.研究開発の課題

1.研究開発の実施期間

指定を受けた日から平成24年3月31日まで

2.研究開発課題

国際社会で活躍する科学者・技術者を育成する中高一貫カリキュラム研究と教材開発-中高大院の連携を生かしたサイエンスコミュニケーション能力育成の研究-

3.研究開発の概要

本校は、平成14年度~18年度の5年間、研究主題「先駆的な科学者・技術者を育成するための中高一貫カリキュラム研究と教材開発」の研究を行った。

平成19年度からのスーパーサイエンスハイスクール(SSH)では、先進的な科学的内容を互いに伝え合い、共有できるサイエンスコミュニケーション能力の育成をめざす。今回の研究では、生徒が獲得した高い科学的資質を伝え合い、共有できる場の創設と、ノウハウの構築をめざしていく。研究内容の柱は以下に示すとおりである。

  1. サイエンスコミュニケーション能力を育成する少人数学習の研究と実践
  2. 国際科学五輪などの世界を視野に入れた生徒の自主的研究・交流活動の支援
  3. 科学者・技術者に必要な幅広い科学的リテラシーを育てるプログラムの実施
  4. 先端技術・研究の成果を活かした授業の普及と次世代SSH教員の養成
  5. 中高一貫SSHの完成に向け中学に重点を置いたカリキュラム・教材の開発

4.現状の分析と研究の仮説

本校は、前SSH研究開発により、「先駆的な科学者・技術者を育成するための中高一貫カリキュラム研究と教材開発」についての研究を推進するため、理科・数学に限らず全教科で取り組むとともに、生徒全員を対象としたことが大きな特徴である。

中高生の「理数離れ」、「学力低下」が問題にされて久しいが、課題に対する有効な手だてはなかなか確立していない。数学や理科の授業時間数を増やしたり、大学入試に理数系科目を増やせば問題が解決するわけではない。また、多くの学校で高校受験や大学受験に数学・理科の授業が収束していることや、諸外国に較べて内容が貧困な教科書の問題もある。

この間のIEAやOECDの国際比較調査では、生徒たちの理科や数学に対する興味・関心が薄いこと、多くの生徒がそれらを学ぶ楽しさ、おもしろさ、有用感を感じていないことが指摘されている。この問題の解決には、中学・高校の6カ年を見すえた多次元的かつ構造的な研究が必要である。

加えて、科学技術の急速な進歩によって、最先端の研究に一部の研究者しか関わらなくなったこと、ブラックボックス化が進行したこと、研究成果を競う風潮などが、人類に貢献する思想に乏しい研究や倫理観に欠ける危険な研究、研究の捏造等を生んでいる。こうした今日的課題の解決のためには、次世代を担う科学者・研究者が幅広い教養を土台としつつ社会的・科学的倫理観を涵養すること、個人の成果に止めることなく、広く研究成果を発信し、専門家のみならず、国際社会に対して説明責任を果たす能力を育成していくことが必要である。本校では前SSH研究の結果、明確となったこれらの問題に対応するために、次の課題を設定した。

第一に、これからの国際社会で活躍していく科学者や技術者の芽を育て、伸ばすためには、最先端の研究成果や高度な内容を学ぶとともに、国際社会に通用するサイエンスコミュニケーション能力を育成する6カ年のカリキュラムの構築をはかる必要がある。そのためには、科学史・科学哲学や国際社会への理解、歴史認識、英語力や表現力、情報リテラシーなどさまざまな能力を伸ばすプログラムを組み、単なる知識の詰め込みではなく、異文化に触れるような学内外におけるさまざまな教育活動を通すことにより、全人的で指導的な科学者・技術者を育成することが期待される。

第二に、理数系に進学する者のみでなく、文系に進む者に対しても同様に科学的な見方や考え方、基礎的な知識や技能、科学に対する興味・関心を醸成するカリキュラムや教材も同時に開発を進めていく。具体的には、「総合的な学習の時間」などを活用し、中学・高校の異学年集団による少人数学習や大学院生・留学生等との交流により、サイエンスコミュニケーション能力の育成をはかる。その結果として、将来社会人としてそれぞれの分野で活躍する際に、科学的事象に対する正しい理解だけでなく他者に正しく伝え、理解してもらう能力を身につけると共に、優れたリーダーシップを発揮して、国際社会に貢献することが期待される。

第三に、科学的リテラシーを育成するプログラムや、先端技術・研究を活かした実験中心の授業、理数系クラブへの活動支援等を実施する。適切なカリキュラム、教材を開発して実施すれば、科学に対する興味・関心を醸成し、科学に関する知識・理解を深めることができると考えられる。そして教え合い・学び合いによって身につけた能力が、将来、先駆的な科学者・技術者に必要とされるコミュニケーション能力へと引き継がれて、国内外の研究の場でリーダーシップを発揮することが期待できる。

5.研究内容・方法・検証

研究内容の柱 (ⅰ)~(ⅴ)の順に詳述する。

  1. サイエンスコミュニケーション能力を育成する少人数学習の研究と実践

    生徒の自主的活動を生かし、科学的内容を互いに伝え合うサイエンスコミュニケーション能力の育成をめざし、「総合的な学習の時間」などを活用し、異学年集団(高校2年生と中学3年生)による合同ゼミナール「サイエンス・スコラ」(仮称)を準備・実施する。この講座は、異学年間で教え合い、伝え合うことによってコミュニケーション能力の向上をはかる。いずれは他校生徒との交流もめざす。また、本講座の実施にあたり筑波大学など(教員・大学院生)と連携するとともに、本校の特色である全教科実施をめざす。具体例として、数学科、理科および英語科の実施計画を以下に示す。

    以上のようなサイエンスコミュニケーション能力が育成できれば、単なるコミュニケーション能力の開発に留まらず、理科・数学を主体的に学習するようになり、理解をさらに深めることができると期待される。また、理科・数学に限らず、他の多くの教科に関する関心・意欲が高まることも考えられる。これらの点について、客観的な評価方法を考案して検証を試みる。

  2. 国際科学五輪などの世界を視野に入れた生徒の自主的研究・交流活動の支援

    諸外国の国際科学オリンピックへの取り組みを調査するとともに、国際科学オリンピック、科学コンクール参加支援をさらに進める。具体的には、筑波大学と国際協力協定を結んでいる北京師範大学との交流を推進し、科学オリンピックで大きな成果を上げている中国の理数系教育について研究する。また、国内で開催される国際交流の機会であるインターナショナル・サイエンス・フェアに生徒を派遣し、交流を進める。また、生徒の国際的視野を広げるため、筑波大学等の留学生との研究交流をはかる。

    指定期間後半には、複数国の科学的先進校との交流・協力体制を確立する。

  3. 科学者・技術者に必要な幅広い科学的リテラシーを育てるプログラムの実施

    これまで実施した経験にもとづいてプログラムの充実をはかる。数学・理科による講演会は内容を精選するほか、講演以外にワークショップなど生徒が主体的に参加しやすい形態をとる。

    また全人教育の理念に基づいた国語・社会(地歴・公民)・保健体育・家庭・芸術・英語科による総合講座を充実させる。講座では、研究者に必要な倫理観の育成を主眼とし、高大連携をさらに進める。また、中学生の参加する機会を増やす。

    具体的には、理系・文系を問わず、幅広い科学への関心と理解を深めるために「科学者の社会的責任」をテーマとして講演会を実施する。講師には、国内外で活躍する教養人・文化人を招く。この講座に関しては、特に中学生にも広く参加を呼びかけて、早期から科学的関心を高める。また、広く「情報伝達」に関わる認識を深めるための講演会を実施する。

    これらの講演会は活字化して残すことによって、講演に参加することのできなかった生徒に対して科学への関心と理解を深めるための一助とする。また、次年度以降の授業において活用ができるよう準備しておく。

    また、総合講座の一環として広島実習を行う。これまでの総合講座の講演の中でもしばしば、「ヒロシマ」が「科学者の社会的責任」を問う原点であるとの指摘を受けてきた。広島では、放射線影響研究分野の中核研究機関である「広島大学原爆放射線医科学研究所」を訪問し、放射線の人体への影響について学ぶ他、「広島市立大学平和研究所」の訪問等を通じて科学の功罪を考える。

    以上の講演会等は、本校の有志生徒(主に科学系のクラブに所属する生徒や希望者)による、「サイエンス・コミッティ」を組織し、プログラムに関する評価を受ける。これらの評価に基づき次年度以降のプログラムの企画・運営を行う。

  4. 先端技術・研究の成果を活かした授業の普及と次世代SSH教員の養成

    これまでに開発した教材の活用(理科実験機器を維持)し、これまでのSSH研究成果の充実・改良をはかる。技術・情報科による新規集中講座を開講する。

  5. 中高一貫SSHの完成に向け中学に重点を置いたカリキュラム・教材の開発

    本校の特色を活かした高校でのSSHカリキュラムにつながる中学向けカリキュラム・教材の研究開発を行うとともに、実施にともなうさまざまな課題を追究する。数学・理科・英語科を中心に全教科で取り組む。

6.研究組織

本校のSSH(平成14~18年度)は、全教科での取り組みが特徴であった。しかし、教科中心の取り組みでは組織が縦割り型になり、教科・科目間の柔軟な連携が難しい面があった。そこで今回は、教科に関係なく全教員が参加する校内プロジェクト組織による取り組みを追加する。これにより、これまで目標としながらも取り組みにくかった教科・科目横断的な研究も実施しやすくなり、5つの研究内容の柱にも柔軟に取り組めるようになると考えられる。

具体的には、以下の研究組織を活用して、研究の企画・推進・評価を実施する。

  1. 校内推進委員会

    SSH再継続にあたり、校内推進委員会の役割は、実施計画書、事業計画書、事業経費説明書等書類の作成および運営指導委員会への出席に絞ることにした。 構成員は下記の15名である。星野貴行(学校長)、宮崎 章(副校長)、仲里友一(研究部長)、市川道和(教務部長)、梶山正明(校内プロジェクトⅠ教育実践1委員長・SSH担当)、真梶克彦(校内プロジェクトⅡ教育実践2委員長・理科)、須藤敬(校内プロジェクトⅢ教育支援1委員長)、小澤富士男(校内プロジェクトⅣ教育支援2委員長)、鈴木清夫(数学)、植村徹(技術)、東城徳幸(国語)、大野新(地歴・公民)、入江友生(保健体育)、山田忠弘(英語)、多賀慶子(事務係長)

  2. 運営指導委員会

    外部の研究者等6名から構成される。今回の研究推進のために特別に設置した委員会で、年2回程度開催する。構成員は下記の通りである。氏名所属・職名真船文隆東京大学大学院総合文化研究科准教授吉田次郎東京海洋大学海洋科学部海洋環境学科教授Huw Oliphantブリティッシュカウンシル 科学・学校教育部長伊藤光弘筑波大学大学院数理物質科学研究科教授井上勲筑波大学大学院生命環境科学研究科教授深水昭吉筑波大学大学院生命環境科学研究科教授・先端学際領域研究センター長

  3. 校内プロジェクト委員会

    全教員が4つのプロジェクトのいずれかに所属する。そのうち、校内プロジェクトⅠ校内教育実践1は、研究内容の柱「(ⅰ)サイエンスコミュニケーション能力育成のためのカリキュラム研究」、校内プロジェクトⅢ教育支援1は、研究内容の柱「(ⅱ)国際交流プログラムの企画運営」を担当し、中心となって研究を進める。また、他の2つのプロジェクトも必要に応じて研究に関わる。

  4. 研究部

    校内の既設の分掌で、5名で構成される。実施計画書、事業計画書、事業経費説明書のとりまとめ、文部科学省およびJSTとの連絡協議、外部からの各種調査・アンケートの実施と取りまとめ等を行うとともに、各研究・プロジェクト間の調整を行う。また、研究発表の場である教育研究会、校内研修会の企画・運営を中心になって進める。

7.教育課程

実施された教育課程は、次表1の通りである。

(文責:研究部 仲里友一)
筑波大学附属駒場中高等学校 新SSH 研究概略図
筑波大学附属駒場中高等学校 SSH組織概略図
表1 高校教育課程
  高校1年 高校2年 高校3年
1 国 語 総 合 (4) 現  代  文 (2) 現  代  文     (2)
2
3 古     典 (3) ★ 古     典     (2)
4
5 地  理  A (2) 倫     理     (2)
6 政 治 経 済 (2)
7 世 界 史 A (2) ★ 数  学  B     (2)
8 日 本 史 A (2)
9 数 学 Ⅰ   (3) ★数学C1 (2) ★数学C2(2)
10 数 学 Ⅱ   (3)
11 ★数学Ⅲ (4) ★古典講読(2)
12 数 学 A   (2)
13 数 学 B   (1) ★地学Ⅰ (2)
14 理科総合B    (2) *物理Ⅰ or 生物Ⅰ(2)
15
物理Ⅱ(4)

化学Ⅱ(2)
生物Ⅱ(2)

地理概論(3)
世界史概論(3)
日本史概論(3)
16 化 学 Ⅰ   (2) *化学Ⅱ or 地学Ⅰ(2)
17
18 体   育   (3) 体     育 (3)
19 ★ 化学Ⅱ(2) ★ 物理Ⅰ(2)
20
21 保   健   (1) 保     健 (1) 体     育     (3)
22 ◆芸 術 Ⅰ  (2) ◆ 芸 術 Ⅱ (2)
23
24 情 報 B   (1) 情  報  B (1) 家 庭 基 礎     (1)
25 英 語 Ⅰ   (3) 家 庭 基 礎 (1) ★リーディング(3)
26 英  語  Ⅱ (4)
27
28 オーラルコミュニケーション (2) ★ライティング(2)
29
30 総 合 学 習   (1) 総 合 学 習 (1) 総 合 学 習     (1)
31 特 別 活 動   (1) 特 別 活 動 (1) 特 別 活 動     (1)
32 H    R   (1) H     R (1) H     R     (1)

            

無印は〈必修〉、◆は〈選択必修〉、*は、各1科目選択可、4科目の内少なくとも1科目は修得が必要。卒業に必要な教科科目の修得単位は、74単位以上(総合学習を含まず)。(高1:29、高2:29or27、高3:8+(8or10以上))