f. ゼミナール・オープン

1. 仮説

本プロジェクトは,「中高一貫カリキュラム開発と研究開発」をテーマとしており,特に,総合的な学習の時間を活用した異学年集団による「教え合い」「学び合い」の授業形態を模索し,教科教育を中心とする中高一貫カリキュラムとそれに関わる教育方法について検討している。その具体的な実践の一つとしての「ゼミナール・オープン」は,普段は高校2年生のみが受講するゼミナール(以下ゼミ)に中学3年生を実験的に参加させる機会を設けることで,正課の授業外で異学年間の学びあいや交流の場を形成し,相互に教育効果が期待できる。

2. ゼミナール・オープンの概要

本ゼミナール・オープンの主体である「ゼミナール」は,高校2年生を履修対象として,各生徒の知的な興味関心や探求心を伸張し、進路選定を援助することを目指して設定されている「総合的な学習の時間」である。ゼミは,次年度の「テーマ研究」へと引き継がれ,ゼミでの成果を基に個人またはグループでテーマを決め,担当教員のアドバイスのもと,それぞれで適宜研究を進めて考察・研究を行い,その成果を研究レポートや作品等に仕上げていく。

各教科からあわせて10講座程度のゼミが開講され,生徒はいずれかの講座を希望して受講している。実施内容は担当教員に委ねられており,生徒の個人研究の発表,その分野の専門家の講義,生徒間での討論等と様々な形態をとっている。

3. 研究

3.1 方法

今年度「ゼミナール・オープン」は,2009年1月10日(土)の2~4時限に実施した。講座は,心理学・国語・地歴公民・数学・理科・保健体育・芸術・英語の各教科から全13講座が開講され,中学3年生のべ233名(在籍123名)が参加した。効果を検証するためにゼミ生の高校2年生及びゼミ・オープン参加者の中学3年生を対象に事後アンケートを行った。

3.2 日程

11/20
中3生徒への予告
12/10
中3生徒へ実施案内・希望調査用紙を配布
12/24
中3生徒の参加ゼミ決定
1/8
中3生徒へ受講講座通知
1/10
開講当日・中3生徒及び高2生徒へのアンケート実施

3.3 当日の開講講座

教科(科目)講座名
心理学心理学(ライフスキルを高め、人間の事象を科学的に捉える)
国語科演劇論的
地歴科戦争と科学のかかわりを考える
公民科市民の司法参加を考える
数学科現象を数学化して考察する
理科(物理)2次曲線(円錐曲線)の不思議と物理現象
理科(化学)分析化学
理科(生物)パターン形成を操る遺伝子 -単離と発現解析-
保健体育科段を取る!
芸術科(音楽)大作曲家の交響曲第5番を聞こう!
芸術科(美術)芸術学とその周辺
英語科怪物と自由
英語科ことばの探検~言語学入門~
写真1:理科「分析化学」
実験風景写真
写真2:数学「現象を数学化して考察する」
授業風景写真

4. 検証

4.1 アンケート結果

2つの事後アンケート結果を紹介する。

  1. ①中学3年生対象のアンケートから

    一つめのアンケートは,「ゼミナール・オープン」に参加した中学3年生全員を対象に行なったものである。質問項目は,前年度の項目を踏襲し,今回の試みに直接関わるものとして6項目を問うた(参加の形態・内容の理解度・参加しての印象等)。2~4限の時限で複数のゼミに参加が可能であったため,講座ごとに回答を得たアンケート数は最終的に175枚となった(無回答項目があるため,回答枚数と各質問項目の回答数は一致していない)。

    以下に顕著な結果を紹介する。

    実質的交流を基にした学びあいの場面ではなくとも,身近な上級生を学習のモデルとして彼らの学習段階に触れることで,中学3年生が各の学習意欲を刺激されたことは自由記述の感想からうかがえる。その一部を紹介する。「難しい言葉が多く,解説はあまり理解できなかったが,単語さえ分かればすべて理解できるような気がした。もっと勉強したい気がした」「あと2年でここまでなると思うと驚きだ」

  2. ②高校2年生対象のアンケートから

    次のアンケートは,高校2年生を対象に行なったものである。質問項目は,今回の試みに直接関わるものとして4項目,「ゼミナール・オープン」での中学3年生との関わり方を中心に問うている。

    以下に顕著な結果を紹介する。

    以上のように、「工夫をした」の数値は低かったものの,中学3年生に「伝えよう」「理解してもらおう」「関わってもらいたい(もっと交流したい)」と積極的にコミュニケーションを図ろうとする姿勢がうかがえる。

4.2 全体的考察(メリット・デメリット)

上記アンケートの結果および,自由記述項目への回答から,全体的なメリット・デメリットが以下のようにまとめられる。

メリット
◆上位学年は,人間関係に配慮した学び合いを進めようと努め,下位学年の理解度を把握するために的確な状況判断が必要となり、コミュニケーション能力や判断力がつく。
◆上位学年は,学習のリード役として下位学年への説明や,疑問(課題)を追究する方法を提示することで,より学習内容の理解(高2生の)の定着が見込まれる。
デメリット
◆教科やゼミの形態,講座の内容によっては成立しにくい学習がある(交流を図りにくいなど)。
◆異学年間の人間関係が未構築状態での実施では,聴衆が多いことでゼミ生にプレッシャーを与えるに終始する。

5. 今後の課題および展望

昨年に引き続き,ゼミ担当者と学年の協力を得ることができた。必ずしも肯定的な反応ばかりではなかったが,この「ゼミナール・オープン」といった総合学習での異学年交流の取り組みは,いずれ中学3年生が高校2年生になり,各自が受講するゼミを選択するにあたって(必ずしもゼミナール・オープンで参加したゼミがそのとき開講されるとは限らないが)積極的なゼミ受講の意識を高められるものであると考えられる。今後は,事後のアンケート結果を踏まえ,①受け入れ側の高校2年生の意識をより高める指導のあり方,②「ゼミナール・オープン」に相応しいゼミ形式の模索が課題となる。

中学3年生対象のアンケートでの自由記述感想から考察できるように,参加後は当該教科に対する学習意欲が高まっている。この高揚した意欲を持続させるための何らかの方策が次のステップとして必要であり,「ゼミは開講中常にオープン(公開)されている…」といったスタイルを可能な範囲でとることも考える余地はある。

「学びあい」を目指して上位学年が下位学年に「問い掛け」や参加しやすい「雰囲気づくり」を気遣うために,学習を進めることを足掛かりとして人間関係の構築も行われる。

また、異学年での学びあいを知った生徒が先輩になったときには,自分たちが経験した学びよりも高度な学習をすることを目指し、向上していくことが期待できる。同学年集団のみで学ぶことで生まれがちな「甘えの構造」や「なれあい」(もちろん異学年集団だからこそ生まれる遠慮もあるが)などのマイナス面が異学年集団での学びあいでは、現れにくいことを期待すると,異学年集団での学びあいの意義は大きい。

一番の成果としては,中学3年生の学習意欲を高揚させ,高校2年生の「伝えよう」「理解してもらおう」といった積極的コミュニケーションを図ろうとする態度を育成できたことが挙げられる。このことから,本「ゼミナール・オープン」は,一方的に「上位学年が下位学年に教える」ものではなく相互作用的に教育効果を生み出したと考えられる。

(文責:校内プロジェクトⅠ・多尾奈央子)