Ⅴ.研究開発上の問題点および今後の研究開発の方向

1.今年度の研究開発について

平成19年度からの新たなSSH、2年目の今年度は様々なプログラムが研究準備段階から試行、一部実践へと移った。特に柱(ⅰ)の「サイエンスコミュニケーション能力を育成する少人数学習の研究と実践」、及び柱(ii)の「国際科学五輪などの世界を視野に入れた生徒の自主的研究・交流活動の支援」に係る活動、実践で、目覚ましい進展があった。これらの研究と実践の母体となるのが教科枠を超えた校内プロジェクト組織である。校内における研究開発のスタイルという観点から見た場合、教科の枠を越えた取り組みとして、本校従来の教科中心型の研究開発から大きく脱却しつつある。また、これら2つの柱での進展は、生徒主体の取り組みを特に重視した実践の成果という点でも自己評価できるものと考えている。

2.評価と課題

今年度、校内プロジェクトI教育実践1では、研究内容の柱(ⅰ)のサイエンスコミュニケーション能力育成に関わる研究・実践を昨年度から継続して進め、教科の枠を超えた多くの成果を挙げることができた。中でも、高校2年生の総合学習「ゼミナール」と中学3年生「テーマ学習」の合同授業開催は、一部の教科・科目、また1回のみであったが異学年合同授業の試行実現として十分に評価に値するだろう。理科物理「二次曲線の不思議と物理現象」(高2)と「音と光の性質とその応用」(中3)の合同授業、理科生物「パターン形成を操る遺伝子」(高2)と「ショウジョウバエの生物学」(中3)の合同授業では、まさに計画していた高校2年生が中学3年生を「教える」場面が多く設定できた。こうした中で、高2生徒には今までの教えられる側から教える側にまわり、もう一度教材を系統立てて理解し直すことが要求された。教材を構成する要素の論理的な序列や階層、関連性に改めて気がついた生徒もいた。このような深い学びへの端緒として、「教える」という体験が生徒にとっても大変有功であることを実感した。意外であったのは教えられる側の中学3年生の反応である。身近な先輩である高2生に将来の自分の姿を重ねながら、緊密な対話形式の指導に新鮮さを感じつつ、いつも以上に真剣に学習に取り組めた様子だった。当初はこの合同授業は「教える側」には学びのメリットがあるものの、「教えられる側」にはどんな効果が期待できるのか疑問であった。しかし下級生の「教えられる側」にも、これほどの刺激を与えることができるのであれば、今後も高学年生徒が低学年生徒を教えるスタイルを大いに取り込み、合同授業を一層充実させていってよいだろう。

昨年度から始まった駒場小学校サマースクールでは、小学生に対する実験指導が本校生徒によってなされている。今年度は1講座増えて全部で3講座となり、この中では中学生が教え伝える側となる機会も少しずつではあるが新たに始まっている。講座に集まる小学生も大勢で多様になり、生徒たちの一層の指導力や工夫、改善が期待される。

今年度大いに進展した取り組みとしては、生徒によるSSH支援・評価活動を行うサイエンスコミッティーの躍進も挙げられるであろう。今年度は主に高校3年生のコミッティーメンバーが、昨年度から始まった生徒研究発表会(卒業研究発表会)を自らの手で企画・運営してくれた。昨年度は口頭発表のみでスタートしたものが、第2回の今年度でついに口頭発表+ポスター発表となり、大きく前進した。文系・理系両方の研究から発表が行われ、大学の教官やOB、保護者の方々にも集まって頂き生徒たちの研究について議論を交わす、といった本校独自の研究発表会スタイルが確立しつつある。また、今年度から始まった東京都内SSH指定校合同発表会での運営補助など、このサイエンスコミッティーにはさらに活躍の場が広がり始めている。

国際交流支援活動でも大きな成果があった。北京師範大学附属実験中学での研究交流会実現である。ただ、惜しむべき点は本校が実現したい研究交流のスタイルにまだ到っていないことだ。本校からは、数学や化学、生物の研究発表を合計6件行ったが、これらのテーマの中には中国生徒との交流に結びつきにくいものもあった。もう少し発表内容やテーマを吟味する必要があるだろう。言葉の問題もある。当初より英語でのコミュニケーションを前提としてきたが、ある程度の中国語の素養もあったほうがよいだろう。実施時期が相手校の期末試験直前であったことも、真の生徒間交流としてはマイナス要因となったようだ。日本人生徒が滞在するのは今回が初めてであったため相手校にとってみれば戸惑いも大きかったことであろう。来年度以降は、これらの課題を少しずつ克服していきたい。

研究内容の柱(iii)、(iv)、(v)の中での実践としては、昨年度準備段階であった、技術情報科の「CAD・CAMの世界にふれるワークショップ」、社会科の「総合講座ヒロシマ(フィールドワーク)」など、今年度初めてオープンとなった企画もあった。教員対象の理科実験研修会や数学ワークショップ、大学院生を受け入れてのインターンシップも継続して行われた。これまでのSSHの成果を継承しつつ、概ね教科中心の取り組みにより内容の精選・改良を進め、発展・普及に務めることができたと考えているが、理科実験研修会への参加者数減少など気に留めておかねばならない課題も見えてきた。

最後に、新しいSSHの研究開発主題への取り組みが、数学や理科の授業だけではなく学校全体の教育活動へと広がりをもつようになってきたことを記しておきたい。例えば、先に紹介した中3テーマ学習と高2ゼミナールの同時開講であるが、文科系のゼミ・テーマ合同授業では「生徒が教える」という手法とは全く異なるアプローチが始まっている。例えば、国語科担当「ろみじゅり」(中3)と「演劇論的」(高2)、社会科担当「731部隊について考える」(中3)と「戦争と科学のかかわりを考える」(高2)では、成長段階の異なる生徒がそれぞれの意見を述べ合いながら、同じ課題を一緒に達成しようとしたり問題の解決方法を探ったりする、ワークショップ的な新しいスタイルの授業が展開している。ここでは、教師にファシリテーターとして今まで以上に難しい役割が求められてきつつある。

3.今後の方向性

来年度も今年度同様に中学3年生の総合学習「テーマ学習」と高校2年生の同「ゼミナール」の合同授業を一部実施し「ゼミナール」・「テーマ学習」間で異学年合同授業の試行を続ける予定である。小学生を教える「サマースクール」についても、中学生も指導者となれる場と位置づけて続けていきたい。また、生徒は教えあい学びあいを通して「より深く学ぶことができたか。」「その過程はどのようなものであったか。」について、効果的なアンケートを作成・実施し、教育的効果を検証していきたい。

北京師範大学附属実験中学との研究交流会については、来年度も実施したいと考えている。ただ、真の相互理解につながる交流会になるように実施時期や内容について改善すべき点も多い。特に発表テーマの選定については中国の生徒にとっても興味関心が持てるよう、専門性のあまり高くない、普段の授業に密着したものを選ぶなど工夫が必要であろう。実施時期についても再検討したい。また帰国後に参加した生徒が核となって国際交流の経験を他の生徒に広げてくれるよう、校内での事後指導の充実も図りたい。

教員向け理科実験研修会は、あり方そのものについて再検討を要する時期だと考えている。教員の研修機会は、来年度から全国で本格実施される教員免許状更新講習会の中で間違いなく増えるようになる。筑波大学では附属学校を活用した実践演習など講習会講座を複数展開する予定である。本校は通算7年間のSSHで先端実験機器を使った生徒実験教材を多数開発し、その授業展開方法そのものも培ってきた。これらのノウハウを普及していく一つの手だてとして教員免許状更新講習会を検討してもよいものと考えている。

来年度、校内プロジェクトは研究内容の一端を継承しつつ、組織を大幅に変更する予定である。しかし、教科の枠を越えた取り組みの実行組織として今年度同様の位置づけを再確認し、特にサイエンスコミュニケーション育成のための少人数学習の研究と実践、国際交流研究活動の支援は、来年度以降も引き続き研究開発重点項目として取り組んでいきたい。

(文責:研究部 仲里友一)