b.理科

1.中学カリキュラムの改革に向けて

本校では、高校の教育課程に関しては、SSHの指定を受けたことにより、新しい教育課程を構築し、さらに発展させている。

本校は、中高一貫校であり、学級数も比較的少ないので、理科第一・第二分野の各分野の授業において、概ね、物・化・生・地を専門とする教員が指導することが可能である。また、各教員は、各科とも、6年間という長い期間すべてではないが、そのかなりの部分に関わることが可能である。そのため、6年間を見通した授業を実施することができる。しかし、授業時間数には限りがあるし、より効果的な教材を配置することが、結局はSSHで開発した教材をよりいかすことになる。幸い、指導要領の改訂により、平成22年度より、中学2年生の授業時数が週当たり1時間増加する予定である。
表.学年ごとの周あたりの授業時数
1分野2分野
1年
2年1→2
3年

2.仮説(これからの5年間の概要)

SSHの第2ステージである“中学カリキュラムへの波及とその効果”を検討することとし、中学カリキュラムにおけるSSHへとつながる教材を開発することを昨年度を含め5年間で実施していくことになっている。(平成19年度SSH研究開発実施報告書)

中学の教育課程の改革に関しては、高校の新しい教材に繋がるカリキュラムを策定することにより、ある程度の目的は達することは可能である。と、考えている。

また、今年度から実施することを企画した高校ゼミと中学テーマ学習の同時開講を複数の科目で実施した。この項目の授業は、教えあい・学びあうという、サイエンスコミュニケーション能力の育成に繋がると考えている。幸い、平成22年度より、中2で1時間の授業時数が増加するので、さらに内容を深化することが可能となった。より効果的で整理されたカリキュラムの策定に向けた実践や今後の目標などについて紹介する。

3.各教科の計画・展望・実施内容など

  1. (1)物理

    昨年度に引き続き、高校の授業で主に用いる実験器具を活かした授業展開を計画した。また、このとき期待できることとして、

    1. ①機器の原理や仕組みを学ぶこと
    2. ②測定やデータ分析から学ぶこと
    3. ③自然現象を定性的に学ぶこと
    の3つの効果を掲げた(平成19年度SSH研究開発実施報告書)が、これらは独立したものではなく、相互に補完し合うことも多い。今年度は、シンクロスコープを用い、上記3つのうち特に①、③の効果を高めるべく、中学で展開可能な実践を試行してみた。

    シンクロスコープは、高校の、とりわけ波動・電磁気分野で頻繁に使用される測定機器である。しかし、実際には使いこなすまでに実験を終えてしまうことも少なくない。そこで、中学「電気」の発展の観察に導入し、少しでも操作に慣れる機会を設けることにした。以下はその概要である。

    *陰極線と対比する
    クルックス管を用いた陰極線の観察は、シンクロスコープの画面に輝点(線)が現れる原理を説明するのに有効である。電場・磁場の変化によって、進行方向が変わることを定性的に理解するだけでも効果は高い。
    *横軸を意識する
    SWEEP TIME/DIVを0.1sとすると、ビームの軌跡は画面の横10マスを1.0sかけて横切る。このとき、SWEEP TIME/DIVによって1マスの通過時間が決まることは比較的容易に理解できる。時計の秒針で確かめる生徒も現れるが、そのうち少しのずれを指摘する声が上がる。さらに微調整ができるつまみの存在と、画面の右端に消えてから再度左端に現れるタイムラグを説明すれば理解が深まる。
    *縦軸を意識する
    VOLTS/DIVを1Vとする。横軸同様、これが縦1マスの値となることを以下の要領で確認する。まず、乾電池と豆電球を用いて簡単な回路を組立て、電圧計・電流計の接続方法を復習する。次に、電圧計の代わりに(電圧計を接続したままでも)シンクロスコープを接続すると、電圧計の値だけビームの軌跡が縦方向に変化することが確認できる。合わせて、乾電池の起電力を直に測定できることも確認する。
    *両軸を意識する
    シンクロスコープに接続したコイルに、棒磁石を近づけたり遠ざけたりすると、それに対応して正弦波に近いビームの軌跡が観察される。次に、軌跡が周期的なことと、動作が周期的なことの関係を理解し、観察した軌跡を記録(目視によるスケッチ、あるいはシャッタースピードを調整したカメラで撮った写真等)する。さらに、棒磁石が最も近づいた時刻と最も遠ざかった時刻が横軸のどこにあたるかを考える。棒磁石の動き(近づける・遠ざける)と流れる電流の向きの対応については、検流計を用いた観察で確認済みなので、乾電池の起電力測定と同様に極性が反転する瞬間(横軸をクロスする時刻)が動作反転の瞬間と対応していることを理解することができる。
    図
  2. (2)化学

    化学科では、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業の一環として、紫外可視分光光度計や赤外分光光度計を導入し、高校化学の授業や総合的な学習の時間の「ゼミナール」、テーマ研究(卒業研究)に活用してきた。しかし、これらの機器のしくみや測定の原理を理解して使いこなすには、光(電磁波)や原子・分子の構造等に関するある程度の知識が必要である。一方、高校のカリキュラムでは、もともと時間数が不足しているのに加えてSSHの実験・授業が加わり、教材の精選に苦労している現状がある。また、電磁波や量子力学による光や原子構造の学習は、現行の指導要領では物理Ⅱで扱われるが、学習時期が高校3年の最後であり、化学の授業には間に合わない。そこで、これまで高校1年で行ってきた光の性質や光と軌道電子の相互作用に関する導入実験を簡易化して、中学1年生「水溶液」の学習と関連させて3時間で実施した。以下、その概要を紹介する。

    1時間目:実験 水溶液をつくる
    <目的>

    薬品の(質量の)はかり方、液体の(体積の)はかり方を学び、正確な濃度の水溶液を作る。

    <概要>

    班毎に指定した1族・2族元素塩化物の1%水溶液をつくった。電子天秤、メスシリンダーの使用法について指導した。

    2時間目:実験 炎色反応
    <目的>

    水溶液の炎色反応を調べ、炎色反応により溶質の成分が推定できることを学ぶ。ガスバーナーの不完全燃焼による黄色い炎とナトリウムの炎色反応による黄色い炎が異なることを、分光シートを用いて確認する。

    <概要>

    前時に調製した1族・2族元素塩化物の1%水溶液をステンレス網に付け、ガスバーナーの炎に入れて炎色反応を観察した。また、生徒全員に35mmフィルム用スライドマウントに入れた分光シートを配布し、一見似ている不完全燃焼で生じた煤による黄色い炎と塩化ナトリウムの炎色反応が異なることを観察した。

    3時間目:講義 炎色反応のしくみ
    <目的>

    黒体放射による光と炎色反応による光の違いについて学ぶ。可視光の色とそのエネルギーの大きさとの関係、軌道電子が励起され基底状態に戻る際、その軌道間のエネルギー差が炎色反応の色を決めることを学び、炎色反応により原子の種類(元素)を識別できることを理解する。

    <概要>

    前時の実験では、煤が熱せられたときに発する光とナトリウムの炎色反応による光が異なることを観察した。これを踏まえ、光の色とそのエネルギーとの関係、原子中の軌道電子のふるまいについて定性的に学び、炎色反応の色により、溶質に含まれる電子のエネルギーの違いがわかり、原子の種類(元素)がわかることを説明した。

    以上の内容は、中学生のレベルを遙かに超えている。しかし、炎色反応や分光シートによる光の観察は、生徒の興味・関心を大いに引き出す内容である。現時点での十分な理解は望めないが、光に関する実験や講義をさらに繰り返していくことで、高校生までに期待する知識が定着できると考え、今後の授業展開を検討中である。

  3. (3)生物

    生物科では、SSH事業により多くの機材を購入することができ、その機材を最大限活用することが可能な教材を開発してきた。現在さらに、改善発展中である。しかし、高校の授業時数は限られており、SSH関連の教材の導入により、時間的にはかなり窮屈な面も出てきている。従って、より新しい教材を生かすためにも、比較的時間のある中学での教材の精選・開発が必要になってきた。

    そこで、昨年度より、中学の教材の開発に取り組み始めた。また、教材開発のみでなく、教科・科目間の連携も限られた時間のなかでのより効果的な授業を実施するためには重要と考える。以上のことを踏まえて実施した中学の授業の概要を紹介する。

  4. (4)地学

    地学分野で「中学カリキュラムへの波及とその効果」を検討するとまず、本校の中学3年生の選択科目である「テーマ学習」が挙げられる。そこでは、生徒が採集した貝化石をもとに、貝化石を含む地層が堆積した当時の環境を推定したり、図鑑を使った分類をもとに形質に基づく生物種の違いを確認する学習を行っている。最初の授業で、化石とは何か、化石の種類にはどのようなものがあるか、などについて話すことにしているが、化石の種類の中で貝殻が溶けて外形の彫刻が地層中に残されている印象化石というものがある。一般に大学などで研究する場合には、印象化石にシリコーンゴム(以下ゴム)を使って型を取って種の同定を行うのであるが、作業自体は簡単で、小中学生でも十分できる内容である。しかしながら、印象化石の数を十分用意できないため、化石を使ってゴムで型を取って印象化石のように見立て、そこに溶いたセッコウを流し込んでレプリカを作ることにした。以下にその手順を説明する。

    (用意するもの)
    ゴム(ジーシー エクザファイン (パテタイプ))、セッコウ、ゴムのおわん、ブラシ、絵筆、セッケン液、シャーレ、細い棒(竹グシ)、粘土
    (作業手順)
    1. ゴムで型を作る
      1. ①化石標本の表面をきれいにする。
      2. ②うすいせっけん液を絵筆を使って標本にぬり、かわくのを待つ。
      3. ③容器から青いパテと黄色のパテをスプーンで同じ量だけ取る。(たとえば、青い方をスプーン1ぱい、黄色い方をスプーン1ぱい)
      4. ④全体が水色になるように手早く指先でもみ合わせる。
      5. ⑤もみ合わせたゴムを標本に押しつける。
      6. ⑥3分くらい待つ。
      7. ⑦かたくなったゴムを標本からはがす。
    2. セッコウを使って、模型をつくる
      1. ①模型を作る前に、セッコウがはがれやすいようにせっけん水をつけておく。
      2. ②セッコウをゴムのおわんに入れ、水を加えて手早く混ぜる。
      3. ③粘土の土台の上にゴムの型をのせる。
      4. ④ゴムの型にセッコウを入れる。
      5. ⑤細い棒でつついて、セッコウが細かいところまで入るようにする。
      6. ⑥10分くらいセッコウがかわくのを待つ。
      7. ⑦ゴムの型からセッコウの模型をはずす。

    予備的に、一般の小学生を対象にした化石のレプリカ作りを実施してみた。ゴムや石膏を初めて使う子がほとんどで、新しいことに挑戦したという達成感があり、満足そうであった。

    参加した小学生の感想を以下にあげてみる。

    作業は1時間から1時間30分くらいででき、何人かの高校生の補助があれば、より効率的に行えて効果が上がると考えられる。
    シリコーンゴムの型(左)・セッコウの模型(右)
    写真

4.教材開発や科目間連携などの展望

SSHに関連して、それまでは実施できなかった新しい実験を加えて、高校の教育課程は充実したものになった。中学における教育課程を作成するに当たり、全く新しい視点で考えるのではなく、SSHで購入した様々な機器を利用した教材を開発することで目的は達することができると考えている。そこで、今年度は昨年に引き続き、中学の教材の開発を中心に取り組んだ。また、紙面の都合で掲載できなかったが、サイエンスコミュニケーション能力の育成の一環として、物理・生物分野で、高2ゼミと中3テーマ学習を同時開講する。という新しい試みを実施した。

教材開発に関しては、それぞれが工夫し、新しい試みが行われているが、昨年度も課題となっていた、理科としての教材を考えたとき、まだ4科目連携は不十分である。ここを改善することが重要な課題となっている。

5.検証

今年度のSSHでの理科の課題は、各科目における取り組みや展望を見る限り、「SSH機器を導入した実験教材」「SSHで開発した教材をより生かすための教材の低学年への移行の工夫」「SSHにより充実した高校の授業をより深く理解するための中学における教材の開発」「テーマ学習における高度な内容の中学生への簡易化」「科目間連携」などが実施された。実施概要を検討すると、SSH機器の利用をはじめ、そこで培ったノウハウを工夫改善することで、かなりの効果が期待できると考えられる。しかし、これらをより深化させ、生徒にとって無理なく、しかも興味を持って学ぶことができる環境が必要である。

幸い、平成22年度より、中学2年生の授業時間が1時間増加する。内容が多くなり、授業時間が窮屈になった高校の授業と効率のよい連携を図るためにも、さらなる教材の精選・改良が必要である。このときに、他科目との連携は不可決であり、生徒の思考能力の発達とも関連させ、思い切って、既存のカリキュラムを再編成することが求められている。

(文責:物理科 真梶克彦 化学科 梶山正明 生物科 石川秀樹 地学科 高橋宏和)
(全体取纏文責 生物科 石川秀樹)