c.北京師範大学附属実験中学との交流

1.仮説

平成20年12月25日から30日までの間、北京師範大学附属実験中学(以降、実験中学と略記する)において、SSH研究交流を実施した。本交流会に参加した生徒は10名で、本校教員4名が引率した。
「熱烈歓迎」の電光掲示板 正門
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この取り組みは本校のSSH研究の柱の一つである国際交流であり、生徒のSSH研究の国際的な研鑽の場として位置付けることができる。また、この交流の実施にあたり、研究発表の交流、生徒同士の交流、宿舎・食事の手配、エクスカーションの手配やそれにともなう車両の手配など、航空券の手配以外はすべて本校教員が実験中学の国際交流センターの職員とe-mailで連絡を取りながら計画を立てて実施した

2.方法

旅程は次の通りであった。

  1. (1) 12月25日(成田空港集合から実験中学到着まで)

    2学期の終業式の翌日、午前8時に成田空港に集合、10時に搭乗した。出発に遅延が生じ到着予定時間より1時間ほど遅れ、北京首都空港に到着。入国審査を終え、お世話になるTAの王曉曉さんに会う。王さんは北京師範大学外国言語文化学院日本語科の大学院生であり、日本語検定1級を取得している。王さんには昨年末の本校教員の実地踏査でも大変お世話になっている。

    北京首都空港からマイクロバスで実験中学に向かった。到着後、寄宿舎に案内され、国際交流センターにて簡単なガイダンスとID用の写真撮影を行った。その後、寄宿舎の食堂で夕食。諸注意を確認し、翌日の研究交流の準備をした。学校の正門は夜10時に施錠されるとのこと。

  2. (2) 12月26日(ガイダンスと授業見学、研究交流)

    6時、起床後、学校の周りを散策した。実験中学は中国の金融街の中にあり、中華人民共和国教育省の裏手に位置するが、一歩通りを入り込むと、朝食を提供する屋台や飲食店が営業している。

    朝食後、袁爱俊校長先生、苏建华国際交流センター長と面会し、熱烈歓迎の言葉をいただいた。その後、国際交流センターの刘玲先生から、期間中の具体的なガイダンスを受けた。刘玲先生には、我々のために詳細なプログラムを作成していただいた。

    午後、高校1年生の数学と物理の授業参観を行った。テスト前ということもあり、演習中心の授業ではあったが、レベルの高い内容であった。

    その後、生徒研究交流(1)を実施した。柿嶌眞前校長も出席した。こうした研究交流は、実験中学では初めての取り組みであり、授業時間(実験中学は40分授業)の枠内での交流となった。事前に研究論文(英文)と発表のプレゼンテーション(英文)をスライドにまとめ、冊子にしたものを実験中学の生徒に渡した。

    最初に数学「The Mathematics of the Rubik’s cube」の研究発表を行った。発表後、中国人生徒にルービックキューブをシャッフルしてもらい、それを短時間のうちに元の状態に戻し拍手を受けた。次に化学「Analysis of the Expression of Segmentation genes in the Early development of Drosophila melanogaster」の研究発表を行った。実験中学の生徒は真剣に聞いてくれた。

    続いて張先生により故宮の解説を英語で受けた。翌日の故宮の理解と見学ではこの”事前学習”はとても有意義であった。

    その後、実験中学の講堂で各クラスの文化行事(文化祭に相当するもの)を見学した。歌がありショートコントあり、各クラスで思い思いの内容が披露された。夕食後、アクロバットショーに案内され午後9時に学校に戻った。

  3. (3) 12月27日(首都博物館、故宮見学)

    午前9時、実験中学からマイクロバスで首都博物館へ向かった。2時間の自由時間をグループごとに見学した。午後は張先生とともに故宮に行った。天安門広場から入り、広い故宮を見学した。歴史的な建築物などに触れながら、有意義なひとときを過ごした。

  4. (4) 12月28日(万里の長城-八達嶺-見学)

    マイクロバスで万里の長城を目指した。万里の長城はいろいろな登り口があるが、我々は八達嶺というところから入った。八達嶺もなだらかな女坂と急な男坂があったが、我々は男坂を登った。

  5. (5) 12月29日(実験中学にて、授業見学と研究交流)

    ロケット製作を行った。キットを組み立て、校庭で発射実験を行った。また化学の授業参観をしたが、ビデオによる実験風景を見ることが中心であった。

    午後、数学の授業を参観し、高校2年生と生徒研究交流(2)を実施した。

    高校1年生により本校の学校説明が行われた。水田があること、餅つきをしていることなど、実験中学の生徒は驚いていた。

    さて、生物分野では「In situ hybridization」、「The Expression Pattern of nanos in Drosophila」、「Analysis of the expression of segmentation genes in the early development of Drosophila melanogaster」の3本の研究発表を行った。社会科学「The Recent Change of Analysis in Industry」の研究発表を行った。

    その後、グループごとに分かれて生徒交流を実施した。その中で、26日に実施した「数学研究」についての質問があった。

  6. (6) 12月30日(実験中学にて、修了式、北京首都航空から成田空港、到着後解散)

    朝食後、修了式が行われた。その中で、実験中学を代表して苏建华国際交流センター長から今回の取り組みがこれからの日本と中国とのよき交流となるものと確信しているという旨の言葉をいただいき、生徒には修了証を発行していただいた。あわせて記念品をいただいた。実験中学が国際交流になれている様子がうかがえた。

2.1 生徒研究発表・交流について

研究発表は授業の時間内に、第1回目は高校1年生を対象に数学と化学の内容の研究発表を、第2回目は高校2年生を対象に生物と社会科学の内容の研究発表を行った。

全般的な感想として、理科については中国の理科カリキュラムの関係や本校生徒の研究内容が高度であったため、実験中学の生徒は興味関心を抱いたようだが質問は少なかった

数学に関しては盛んに生徒からの質問があり、よい交流ができたと実感した。

また、社会科学の内容についてもよい発表ができたので、今後は理科、数学だけでなく、人文、社会、日本文化など多方面の研究発表が可能になればよいと感じた以下、数学と理科について、詳しく述べる。

2.2 数学

The Mathematics of the Rubik’s cubeというテーマで研究発表を行った。時間的な余裕がある場合には、我が国の江戸時代の数学である和算を中心としたテーマについて、問題作りの観点から生徒が興味関心を引く内容を用意した。
研究発表 数学
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ルービックキューブについては、世界的にもよく知られており、実験中学の多くの生徒も興味を示していた。第2回目の生徒研究交流会のおり、研究冊子を見た高校2年生から質問が出て、発表を行った生徒はうれしそうに説明していた。

2.2 理科

本校生徒が発表した理科分野の研究は、

  1. (1) Solid Catalyst Made from Carbon Material

    (化学分野)

  2. (2) in situ Hybridization
  3. (3) The Expression Pattern of nanos in Drosophila
  4. (4) Analysis of the Expression of Segmentation Genes in the Early Development of Drosophila melanogaster

    (以上生物分野)

の4件で、合計6名の生徒が発表にあたった。化学分野の研究は、東京工業大学資源化学研究所助教授、原亨和先生にご指導を頂いているもので、今後、本校高校3年生まで続くテーマ研究(卒業研究)へと継続・発展させていく予定のものである。
研究発表 化学
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生物分野3件の研究は、本校高校2年生の選択授業「ゼミナール」で行われている「パターン形成を操る遺伝子−単離と発現解析−」で夏期休業期間中に行った実験結果を報告するものであった。

いずれも高校生としては、専門的かつ発展的な内容であったため、専門用語の頻出する発表内容は実験中学の生徒たちには今ひとつ理解しにくかったようである。特に生物分野の研究発表では、聞き手の知識をどの程度に設定するか手探りの状態であった。取りあえず、本校高校2年生(同学年)程度を想定してみたが噛み合わなかった。もし、このような発展的な実験内容の報告を行うのであれば、寧ろ導入部分に重きを置くプレゼンテーションが望ましかった。この点については、助言者である筑波大学生命環境科学研究科教授 柿嶌 眞先生にもご指摘を受けた。

なお、今回の理科分野の発表はいずれも、高校2年生の生徒各人が特に関心をもっている分野の発展的な実験内容であったが、今後は必ずしもこのゼミナール・テーマ研究レベルに拘らない方が良いように感じた。例えば、通常授業で行った理科の生徒実験を何か1つ選んで紹介するプレゼンテーション等の方が妥当であろう。これならば、高校1年生でも中学生でも学年や時期を問わず報告できる。実験中学の生徒にもこうした報告をお願いし、より意見交換を行いやすいプレゼンテーションとそれをもとにした交流会の形態を模索していく必要があるだろう。今後の大きい課題である。

参観した理科の授業は物理2コマ(力学分野−等加速度運動、等速直線運動)、化学1コマ(無機化学分野−硝酸の特徴について)の授業であったが、定期試験前の復習の授業であったためか、演習や知識確認の内容であった。化学にいたっては演示実験の模様を収めたDVDを上映するにとどまり、生徒が活動する場面は全く見ることができなかった。どちらかといえば基礎的な内容に重きを置き、ハイテンポで進められる授業形態のように見受けられた。定期試験前以外の通常の授業ではもっと生徒が生き生きとし、活動的なものであるとの話を伺った。機会があればこうした生徒実験の授業も参観してみたい。また、カリキュラム上は通常のクラスと一緒であるとの説明を受けた「理科実験クラス」(中国版「スーパーサイエンスハイスクール」)であるが、こちらの授業も参観できればと願う。

教師の多くは30代〜40代と若く大変印象的であった。また、教師全体で約47%が学位を取得している。こうした点は殆どが学士止まりの日本の理科教師と対照的であり、欧米と同様であるが、研究者レベルに近い高学歴とそれから期待される専門性や教養が中等教育の現場でどのように活かされているのか、今回の理科分野の授業参観からは伺うことができなかった。
研究発表 生物
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オリジナリティーの高い実験教材開発などが行われているのであれば是非、理科教員同士の交流も今後実現させていきたい。

2.3 社会科学

交通経済に関する研究について,高校2年生が研究発表した。この生徒は,参考文献で研究したり,その分野の研究家である一橋大学の教授に面会したりして研究をおこない,有意義な助言をいただいてきた。

もの,人のながれなど貿易を通して,我が国と中国が交流していく基本的な有り様ではないかと感じられた。本校では,いわゆる文系分野においてもSSH研究を行ってきているので,これらの分野においても今後積極的に交流していけるものと考える.
研究発表 社会科学
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3.検証

3.1 北京師範大学附属実験中学との交流と課題(交流までのやり取り)

当初の計画は丸々2日を使い、日・中の生徒がそれぞれの研究分野について発表をし、意見交換する、というものであった。しかし先方の国際交流センターからの回答は「学期末のまとめの時期であり平常授業を発表活動に変えることはできない、発表は放課後のみ」というものであった。

実験中学のこれまで外国の学校との交流は文化交流が一般的であった。米国とフランスに姉妹校を持ち、フランスとは10月に、米国とは3月に交流を行っている。そして姉妹校からは中国語を勉強している生徒がやって来るため、生徒との意見交換や市内観光などすること自体が、中国語を試す機会となり、交流の意味があった。先方では、本校の取り組みも類似のものと推測して、上記のようなプログラムを提案したのであった。
実験中学の高校2年生との交流会
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しかし本校の交流はSSHの一環ということから、理数の研究発表を通じて、相互の意見交換を通した交流、を目指している点で異色である。この点を理解してもらうのに随分時間がかかった。

3.2 文化施設の見学

今回の実験中学との交流では,航空券取得で旅行会社を使ったが,それ以外は,すべて実験中学がプログラムの原案を作ってくれて,それに駒場側が対応しながらお互いにプログラムを決定していく形をとった。それらの原案は,実験中学が米国などの交流しているところでの実践がひな形に成っているものと思われる。そのため,最初は,文化施設の見学が多く感じた。何度もe-mailで生徒の研究で交流したいんだということを訴え,今回の交流の運びとなった。

しかし,実験中学の行事のこと,地区の期末認定試験が近いということ,土曜,日曜を挟むこともあり,文化施設見学はやむを得ないことでもあった。

我々は,実験中学のプログラムにより,次の文化施設見学を行った。

中国雑技団見学,万里の長城見学,首都博物館見学,故宮見学

その中で,故宮の見学に際しては,事前に実験中学の歴史教師が英語で故宮の歴史についての講演があり,その先生が実際に引率していただいた。まさに,フィールドワークである。

また,万里の長城見学に際しても,その歴史教師に引率してもらえたので,とても有意義であった。

3.3 まとめにかえて

今回のように、本校の生徒が研究発表をし、あるクラスの生徒を対象に聞いてもらうという形式は、研究発表の内容がかなり専門的な場合、語彙や内容の面から理解が困難な場合がある。もちろん「ルービック・キューブの数学的分析」の発表などは、興味を持った中国の生徒が質問をし、発表者との間で討議もあって、非常に有意義であった。したがって、ある特定クラスというより、興味関心のある生徒を募って、その生徒たちを対象に発表する方が、より交流は深くなるであろう。
生徒交流修了式
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そのためには、発表内容など事前に知らしめておく必要がある。ただし、その場合の交流は、「理数の内容」中心のものとなり、中国の学校生活とか一般生徒との交流とかとは縁遠いものになる可能性がある。交流の目的をどこにすえるかが大事だと思われる。

高2の研究発表に先立って、高1による学校説明が行われた。リーフレットを参照しながら、さまざまな学校行事があることも示された。聴衆もこの時点では関心があるように見えた。しかし、時間の関係もあり、また事前にビデオなど用意することなどもしなかったので、あくまでも「前置き」であった。
修了式を終えて
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これが例えば、文化祭で自治会が行っているパワーポイントによる学校紹介や本校がSSH指定校で理数系に重点をおいている事などを紹介した上で、理数的な研究発表をすれば、もっと全体像が見え、本校の理解も深まり、親しみ易くなったのではないか。

理数系の研究交流にとどまらず、学校生活など文化交流的要素も含めた方が、実験中学の生徒も交流し易いのではないかと思う。

5日間、キャンパス内に泊り、研究発表・授業参観をし、文化的施設を見学するというプログラムは、本校はもちろん、実験中学でも初めてのことであった。その点で、この交流プログラムをともかくもスタートさせた、という点に大きな意味があったと考えている。

(文責:数学科 牧下英世)