化学特別講座「サッカーボール型分子C60とその仲間たち」(7/17)

 
C60はサッカーボール型分子として有名            熱演される赤阪先生     

筑波大学先端学際領域研究センター・化学系 赤阪 健

 1993年に開幕したJリーグは、日本にサッカーブームを巻き起こし、ワールドカップ初出場を実現しました。2002年には夢かなってワールドカップの開催にまでこぎ着けましたが、科学の世界でもミクロな世界のサッカーボール(図1)に魅惑された研究者がフィーバーしています。それは、1985年にすすの中に炭素原子60個からなるサッカーボールの形をした美しい分子C60(図2)が発見されたことに端を発します。炭素の単体物質(同素体)としては、ダイヤモンドや鉛筆の芯に使われるグラファイトが知られていますが、C60はそれらに続く新しい炭素の第三の同素体です。この二十世紀最大の発見の一つに対して1996年度ノーベル化学賞が授与されました。このC60分子から興味深いことに超伝導物質が得られますし、宇宙を漂う星間分子であることもわかってきました。科学のいろいろな分野、化学・物理・生物・医学等、と広く関わりのある分子です。今では、C60に代表されますフラーレンと呼ばれる巨大炭素分子群には数多くの種類があることがわかってきました。ラグビーボール形のC70や炭素数がより多いC76やC84分子などの高次フラーレン、さらにはランタニド系金属原子が炭素のかごの中に入った金属内包フラーレン(図3)と呼ばれる親戚がいます。面白いことに図4のように、金属原子がかごの中で回転しているものも見つかりました。また、フラーレン分子を引き延ばした様なストロー状の構造をしたカーボンナノチューブと呼ばれる炭素多面体(図5)も見つかり、極細チューブ等のいろいろな顔や姿をした、いわゆる「かご状炭素ナノ集合体」呼ばれるべき仲間たちもいます。これらはアーク放電装置(図6)等により実験室で合成することができ、これらを炭素素材原料として新たな物質が無数に化学合成できることも分かってきました。サッカーボールを組み合わせた結晶、ボールにひげの生えた化合物やボールを繋いで得られる真珠のネックレスのような高分子など、それらが一体どのような新しい性質を示してくれるのか楽しみです。
      興味深いお話に聞き入る生徒たち
 
                  スペシウム光線のエネルギー源は“スペシウム元素”を内包したC60!?

講演要旨

講師:赤阪 健 先生(筑波大学先端学際領域研究センター(Tara)化学系教授)
日時:2003年7月17日(木)10:30〜12:30
場所:本校50周年記念会館
対象:高校3年化学TB選択者+希望者
参加者数58名(高115名,高211名,高332名)

・C60(フラーレン)、高次フラーレン、金属内包フラーレン、カーボンナノチューブについて、お話しする。  
・C60発見の経緯
 C60は炭素数60個の分子で、サッカーボール型であることが確認され、大量合成されたのが1990年。1996年に、発見者3名はノーベル化学賞を受賞している。
・セレンディピティー 偶発(偶然)による発見
 エクソン研究者は、1年前にC60やC70のピークを観測していたが、考察しなかった。
 同じ発見をしていても(偶発)、「なぜだろう、なぜかしら」と考えることが重要。大学の卒業研究・大学院の研究でも大切である。
・フラーレンのカラム分離
 フラーレンは幸い溶媒にとけるので、クロマトグラフィーによって純品を得られる。また、色があるので可視光を吸っていることがわかる。
・フラーレンの利用
 超伝導材料として。発見はアメリカのベル研だが、高温超伝導のチャンピオンデータは日本がもっている。日本人は応用は得意である。
・フラーレンの構造
 金属錯体を合成して、X線構造解析を行った。常温では、回転していて解析できない。 のちに4Kの低温で単体の構造解析が行われた。
・炭素第3の同素体であるフラーレンは分子である。ダイヤ・黒鉛は分子ではない。
・フラーレンの存在
 6500万年前の地層K/T境界線からフラーレンが発見された。また、宇宙からの信号の中にもC60の存在を示すものがあった。スペースシャトルと星間物質の衝突部分からもフラーレン発見された。星間物質の衝突による衝撃で生じたのではなく、もともと存在していたものが付着した。
・カーボンナノチューブを使って、宇宙ステーションへ物質を輸送する計画がある。
・フラーレンはどうやってできるのか
東大物理の先生が計算した。オイラーの公式にあてはめると、5角形12個、6角形はさまざまな個数である。5角形同士は隣り合わない。隣り合うと不安定で、孤立五員環則という。大きなドーム建築物でも、5角形は必ず12個である。C60は6角形20個、C70は25個からなる。
・ナノテクノロジーが注目されているが、フラーレン1個の直径は1nm(ナノメーター)である。値段は、重量あたり金と同じくらいで、今後さらに安くなるだろう。
・ヘテロ原子化学、ケイ素化学
 分子の形と電子的特性、動的制御を研究している。
・フラーレンがエイズの特効薬に?
 HIVウイルスの活性部位は、直径1nmの空間。そこへC60を水溶性にしてドラッグデリバリーして結合させ、活性を失わせる。化学のみが物を作れる学問である。
・フラーレンは、可視光線を吸収して活性化する。無色の物質は、可視光のエネルギーを利用できない。フラーレンが、ガンの治療に利用できる。C60が吸収した光エネルギーを酸素に与えて、活性酸素(一重項酸素)(ふつうの酸素は三重項)を生成しガン細胞を攻撃する。
・筑駒卒業生でSSH運営指導委員の中村栄一先生(東京大学)の研究
 サッカーボール分子に5枚の羽根を付ける。それを柱状につなげる、など。このようにすると、液晶になる。また、直径1nmの分子ワイヤーが作れる。
・フラーレン3つの化学
1 外側の化学
・羽根、水溶性カルボキシル基を付ける。
2 原子(分子)の内包
・実験と理論のinterplayが大切である。
・裏面化学、C60には裏がないと思われていた。p軌道は外側のローブが大きい。理論計算では、H+が不安定なので、内側に電子は存在しない。
・ストラティファイド素材の最小単位。
・層構造を持つ機能性分子の最小単位。
・金属内包フラーレンは、炭素棒の放電時にいっしょにLaを入れ蒸発させてつくる。
・La@C60はすすの中にあるが、抽出して液クロで分離できない。今のところ金属内包C60はまだ単離できていない。
・フラーレンの高い電子親和力により、内包された金属が安定化している。
・La@C82 はLiに似たスーパーアトムになる。La原子は、スピンを持っている。
・「ウルトラマン解体新書」に登場する、ウルトラマンの出すスペシウム光線は、地球にはない金属スペシウムSp@C60であると書かれている。
・本当の真空は、フラーレンの中だけにあると、私は考えている。ほかにあるだろうか?考えてみてほしい。
・鉄原子を入れると酸素はフラーレンの中に入れないのでさびない磁石ができる。
・N@C60をつくれば、安定にN原子だけの性質を知ることができる。プラズマで合成する。1分子でスピンを持つので、量子コンピュータの素子になる?
・1.希ガス原子は、ステンレス容器中にフラーレンと一緒に入れ、高温高圧にすると、フラーレン中に入る。どこかが切れてはいるらしい。
・2.15族は・・・
3 骨格の化学 骨格炭素の置換
N60分子は不安定で、30個のN2 分子になるときロケット打ち上げが可能なくらいのエネルギーを放出する。しかし、合成するにはは不安定すぎる。産総研で論文がでているが、実験屋は困難視している。
・ベンゼン(フラーレンの6角形)の中を通るのは、H原子かHeのみだろう。
・外側に分子を付けることで、内包Laの位置を変えることができる。
・金属原子の内部回転で、微小磁場が生まれる。高温で速い。La2@C80は、2台のバイクが鉄網の中を回転する、サーカスの恐怖のオートバイショーのように決して衝突しない。・Ce2@C80は、ケイ素原子を付けると、Ce原子は赤道上のみを回る。
・カーボンナノチューブは、閉じるには5角形、開くには7角形をつくればよい。
・Tara7年間の任期制なので、それまでに成果を上げないといけない。

質疑応答
Q:宇宙ステーションへの物質輸送で、カーボンナノチューブはどのように利用するのか。結晶か。
A:素材としての強度を生かして使う。鉄の代わりである。結晶は、ある人が作ったといっているが、まだ再現されていない。
Q:カーボンナノチューブに金属は入るのか。
A:はじめ、鉛が吸い込まれた。金属のナノワイヤーができる。また、中で反応させればきちんと並んだ構造の高分子ができる。いずれも、どうやって取り出すかが問題だ。アルカリ加水分解して破るか?強い物質なので大変である。
Q:Fe@フラーレンのFeはどこに存在するのか。
A:Fe@フラーレンはまだできていない。C80は、C60の次にシンメトリーなので、エネルギーはどこでも同じである。だから、内包Laは回っている。C82はLaが安定なエネルギーをもつ位置で止まっている。
Q:ランタンの中で、Pmだけ内包されたものがないのはなぜか。
A:Pmは放射性元素なので、扱えない。アメリカでは、U@C80もある。日本では、原子力発電の廃棄物をフラーレンに閉じこめる研究も進められている。炭素でできたカゴが強く、γ線によっても壊れない。金属を入れたまま放射化することもできる。
Q:フラーレンの中へ金属を入れると結合しないのか。
A:内部には電子の分布が少なく、結合しない。